管理局にとって、年の初めほど関係のない行事はない。
そもそも管理する次元世界ごとに時期が違うのだ。
ましてや本局ともなると1日という感覚そのものが曖昧になる。太陽も登らなければ夜もこない。
だから本局で働く人間は、年が明けたことにすら気付かないことがまれにあった。
「……ってわけで、初詣はまだ行ってないよ」
「あ、そう?じゃあ一緒にいかない?」
というわけで。
なのはと一緒に、地球の神社へ時期遅れの初詣に行くことになりました。
閑散とした神社で
この世のどこかに、誰も知らない神社があるという。
様々な妖怪が夜な夜な集まり、巫女と共に酒宴を繰り返すというおかしな伝承が、無限書庫の片隅に、申し訳なさそうにおいてあった。
僕が初めて地球に行ったのは9歳の時であり、一年もしないうちにミッドへ帰ってきた。それ以来地球では大した時空犯罪もなく、地球に関してそれ以上調べる機会のなかった僕にとって、神社の情報はそれがすべてだ。
だから、神社についての第一声が、
「あれ、巫女さんいないね?」
だったのは、仕方がないことだと思う。
「ユーノくん、そういう趣味だったんだ……」
「ち、違うよ!不可抗力だって、これは!」
突き刺さる視線が痛かった。
真っ赤な振り袖に身を包んだなのはは本当にかわいくて、反比例的にそんな視線を浴びる苦痛が普通より2割くらい増している。
誤解をとくのに結構苦労しながら、賽銭箱に入れる小銭をポケットから、
「あ……円、持ってきてないや」
間違ってミッド通貨をそのまま持ってきてしまったことに気付く。
「ごめんなのは、お金かしてくれる?」
「ふえ?」
いたたまれない気持ちになりながら、となりにいるなのはを頼る。
女性からお金を借りる男性って、正直どうなんだろう?
「うんいいよ、はい」
幸いなのはは気にした様子もなく、あっさりと財布を渡してくれた。って、あれ?
「な、なのは?これ、開けてとっちゃっていいの?」
人の財布を開けるのは、それなりに抵抗がある。普通に小銭だけ貸してくれればいいのに、どうしてわざわざ財布ごと渡すんだろう?
「うん、いいよ。ユーノくんだし」
……信頼されてる、って事なんだろうか?
釈然としないまま財布を開ける。
なのはの財布は長方形を折り畳み、内側に小銭入れが取り付けられているタイプの財布だった。
小銭入れのチャックを開き、10円玉を取り出すときに、となりの透明なポケットに写真が入っているのが見えた。
「あ、この写真……」
一年ほど前だっただろうか。
なのはの怪我が完治したお祝いに、みんなで集合して撮った写真だ。
あの時の怪我は、本当に酷かった。
毎晩毎晩、泣きじゃくるなのはをなだめに行ったものだ。
……そういえば、この写真を撮ったとき、たしか……
「ああ、それ?それは……い、いろいろと、思い出の写真だから」
うっすら桃色に頬を染めて、なのはが言う。
……たぶん、僕の方も赤い顔になっているんだろう。
「そ、そっか。はいお財布、お金は今度返すね」
「う、うん!」
財布を返すときに、指が触れる。
とたんにお互い赤くなって、僕は慌てて手を引っ込めた。
僕の記憶が確かなら、写真を撮ったとき、僕となのははこっそりと手を繋いでいたはずだった。
なのはの話では、参拝の時は、頭の中で願い事を唱えるといいらしい。
だけどさっきのことで頭がいっぱいだった僕は、まずなによりを願うより先に、
(……今年はなのはと、もっと一緒にすごせますように)
墓穴を掘って、頭の裏まで熱くなる思いをした。
「ユーノくん、どんなお願いをしたの?」
「…………」
答えられる訳がない。
返答に困って顔を伏せると、
「私はね、今年はもっと、ユーノくんと一緒にいたいなあ、ってお願いしたよ」
……聞き間違いではなかろうか。
慌てて前をみると、そこにはなのはの後ろ姿。うなじまで赤く染まっている。
「……ユーノくんも、同じだといいなあ」
呟くようにそういうと、なのははこちらに振り向いて、
「写真の効果、あったかな?」
恥ずかしそうに首をかしげてウインクするなのはが、息を飲むほどかわいくて。
「……うん。抜群だったよ……」
呆然とそう答えることしか、僕にはできなかった。
余談だが。
「どうやユーノくん、うちのラブラブ写真大作戦は?」
「はやて、君の入れ知恵だったのか……」
そういうことらしい。終わり。