それは、ある昼下がりの一幕。



「……なのは?」



遥か彼方の空を見つめる、純白の影がありました。



「……ユーノくん」



それは、ある日常の一幕。



「なにか……あったの?」



見つめる彼女の傍らに、優しい影がありました。



「ううん……なんでもないよ」



そしてそれは、ある幸福の一幕。

二つの影の視線の先に。





「ただ……幸せだなって、思ってたの」





金髪を揺らしてはしゃぐ、小さな影がありました。







―ある日のはなびら―







時空管理局戦技教導隊一等空尉、Ace of Ace こと高町なのはと、同じく時空管理局無限書庫司書長、ユーノ・スクライアの電撃結婚から、二年。

愛娘・ヴィヴィオの成長と共に、二人はその仕事を、だんだんと減らしていった。

もともと有りすぎるほどお金はもらっていたし、なによりも。

『私は、なにかを犠牲にしてでも守りたいものができちゃったから。もう、みんなのためには羽ばたけない』

『こんな僕でも、大切に想ってくれる人がいる。僕は、彼女たちを悲しませたくない……だから、無茶はもうできない』

という本人たちの意思と、

『スバルやティアナ……それにキャロ、エリオだって。未来に繋げることができたなら、こんどはその子達に、羽ばたける場所を渡してあげないと』

愛弟子たちの、素晴らしい成長があったから。





結婚してから格段にふえた休日。それはもっぱら、家族で一緒の旅行に使われることになる。

今回はミッド、クラナガンから電車で二時間ほど行ったところにある、郊外の大きな公園に来ていた。

「なのはままー!」

頭の上に色鮮やかな花を一輪のせて、ヴィヴィオがこっちに走ってくる。

その両手に、白と黄緑の花を、一輪ずつもって。

水色の爽やかなワンピースを見に纏ったなのはは、その無邪気な姿に思わず顔を綻ばせて、

「ヴィヴィオ、どうしたの?」

自分も駆け寄って、ヴィヴィオを抱き上げた。

後ろからユーノが、ゆっくりと歩いてくる。

「ヴィヴィオ、ママにあれ、みせてあげよう?」

「うん!まま、これ見て?」

小さな手のひらに包まれた、柔らかな花弁。

よほど大事に持ってきたのだろう、花びらは欠片も傷ついていなかった。

「ヴィヴィオが見つけたんだ。なのは、君に似てるって言ってね」

「へー……綺麗だね。ヴィヴィオ、どうしてなのはままなのかな?」

「だって、白くて、かっこよくて!それにまわりの草にもまけないで咲いてて、とってもきれいだったから」

なるほど確かに花は白かった。

自分のバリアジャケットを思わせる純白。纏う輪とした雰囲気は、Ace of Aceと呼ばれていた頃のことを思い出させる。

「じゃあヴィヴィオ、こっちは?」

「これはね、ゆのぱぱ!」

「……ユーノくん?」

もう片方の手に握られていたのは、薄い黄色の、花びらというよりはふさふさした細かい羽のようなものだった。

ユーノは苦笑し、

「……フェレットの、しっぽなんだって」

ああ、となのはは思ってしまった。

ユーノの変身魔法。フェレットの姿は、そりゃもうはっきりと思い出せる。

「確かに似てるね。ヴィヴィオ、偉いぞー!」

ぎゅーっと抱き締めて、むちゃくちゃに頭を撫でる。

するとヴィヴィオはますます嬉しそうに、

「きゃー!」

「……もうずいぶん、フェレットになってないのに……」

その後ろでがっくりと肩を落とすユーノ。

しかしその口もとは、はっきりと笑みのかたちを作っていた。





夕方。

遊び疲れて眠ってしまったヴィヴィオを、ユーノが背中に背負って。

「また……これるといいね」

「うんっ……絶対、またこようね」

微笑みあって、重なる影が2つ。





幸せは、続いてゆく。